
介護の「モニタリング」には、ケアプラン評価と日々のバイタルサイン・状態変化の観察記録の2層があります。本記事は後者に特化し、バイタル6項目の観察ポイント、場面別状態変化マトリクス、ICT見守り5社比較を現場ですぐ使える形で解説します。
1. モニタリングの2つの意味と本記事の立ち位置
介護におけるモニタリングには、(A)ケアマネジメントのモニタリングと(B)日々の状態観察モニタリングの2層があります。(A)はケアプラン実施状況の月1回評価でケアマネが担当し、(B)は毎日のバイタルサイン・状態変化の観察記録で全職種が担います。本記事は(B)の日々観察軸に特化し、(A)はケアプラン文例記事へ委ねます。
「モニタリング」は目的・頻度・担当者の異なる2層があります。定義表で整理します。
| 比較項目 | (A) ケアマネジメント・モニタリング | (B) 日々の状態観察モニタリング |
|---|---|---|
| 目的 | ケアプラン目標達成の評価と改訂 | 状態変化の早期発見と事故予防 |
| 頻度 | 月1回以上 | 毎日(勤務のたび) |
| 担当者 | 介護支援専門員(ケアマネ) | 全職種 |
| 対象 | ケアプラン全体の実施状況 | バイタルサインと日々の行動・状態 |
検索上位記事の多くは(A)を主題としますが、現場で毎日行いヒヤリハットに直結するのは(B)です。本記事は(B)に特化し、(A)は「ケアプラン文例200選」、記録全体は「介護記録の書き方完全ガイド」へ委ねます。

2. 日々のモニタリングの目的と法令根拠
日々の状態観察モニタリングの目的は、状態変化の早期発見・事故予防・ケアの質向上・ヒヤリハット未然防止の4つです。法令根拠は介護保険法(指定事業者の運営基準遵守義務)、指定居宅サービス等基準(平成15年厚労省令第34号・記録保存2年)、厚労省介護給付費算定構造に関する基準(月1回モニタリング)に求められます。
日々のモニタリングは「利用者の状態把握」を支える基幹業務で、4目的と法令根拠は次のとおりです。
4つの目的
- 状態変化の早期発見:微熱や歩行変化など初期サインを捉え重症化を防ぐ。
- 事故予防:転倒や誤嚥リスクを観察データから読み取り対策につなげる。
- ケアの質向上:観察事実を蓄積し個別ケアの改善材料とする。
- ヒヤリハット未然防止:小さな変化を見逃さず事故前に対処する。
法令と通知の根拠
- 介護保険法:第41条等で指定居宅サービス事業者に運営基準遵守義務を課し、状態把握は運営基準で詳細化されます。
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成15年厚労省令第34号):第19条等で状態記録の作成・保存(完結から2年)を義務付けます。
- 厚労省「介護給付費等の算定構造に関する基準」(基本通知):月1回以上のモニタリング実施が算定要件に位置付けられます。
3. バイタルサイン6項目の観察ポイントと異常値の判断基準
バイタルサインの観察は体温・血圧・脈拍・呼吸数・SpO2・意識レベル(JCS)の6項目で行います。高齢者は平熱が低く微熱でも重症化のサインになり、SpO2は96%未満でサイレントハイポキシアに注意します。意識レベルはJCS(3-3-9度)で段階評価し、各項目の正常範囲と異常値の判断基準を押さえることが観察の基本です。
バイタルサインは状態変化を最も早く伝える客観指標です。高齢者では6項目の正常範囲と注意点を押さえる必要があります。本節は競合がほぼ触れない領域です。
バイタル6項目の観察基準表

| 項目 | 正常範囲(目安) | 高齢者の注意点 | 異常値の判断基準 |
|---|---|---|---|
| 体温 | 36.0〜37.0℃ | 平熱が低め(35℃台)の人も多い | 平熱+1℃以上、または36℃未満 |
| 血圧 | 100〜140mmHg | 脈圧拡大と起立性低血圧 | 180/110超、または90/60未満 |
| 脈拍 | 60〜100回/分 | 不整脈の潜在と薬剤の影響 | 100超の頻脈、50未満の徐脈 |
| 呼吸数 | 12〜20回/分 | 呼吸器疾患の既往が多い | 22超の過呼吸、10未満の徐呼吸 |
| SpO2 | 96〜99% | 96%未満で低酸素リスク | 94%以下は即時対応、サイレントハイポキシアに注意 |
| 意識レベル(JCS) | I-1〜I-3(清明) | 軽度の低下も見逃しやすい | II-10以上は要観察、III-100は緊急 |
見逃しやすいサイン
- 体温:平熱+1℃で判断。35℃未満の低体温症は感染症のサインにもなります。
- 血圧:起立性低血圧は転倒リスクに直結。服薬後と起床時の測定が効果的です。
- 脈拍:不整脈は触診で気づくことも多く、1分間の計測が重要です。
- SpO2:サイレントハイポキシアは苦痛を訴えずに低酸素になる状態で、定期測定が唯一の検知手段です。
- 意識レベル(JCS):3-3-9度法でI(清明)/II(刺激で覚醒)/III(刺激でも覚醒せず)を段階評価します。
バイタルはSOAPのO欄に構造化すると変化の追跡が容易になります(「看護記録SOAPの書き方」参照)。
4. 場面×状態変化パターンの観察記録マトリクス

日々の行動場面で現れる状態変化を記録に残すと早期発見の精度が上がります。8パターンを代表3ケースで詳細化し、全パターンは補助マトリクスで示します。
状態変化パターンの全体像(8パターン×5場面)
状態変化は8パターンに分類でき、場面によって現れ方が異なります。横に長いため、まずは後述の代表3ケースを確認いただき、表は補助としてご活用ください。
| 状態変化 | 食事 | 入浴 | 排泄 | 就寝 | 活動 |
|---|---|---|---|---|---|
| 食欲低下 | 摂取量減少 | — | — | — | 倦怠感 |
| 歩行不安定 | — | 移乗不安 | — | — | ふらつき |
| 認知症状悪化 | 手順忘れ | 拒否 | 失禁 | 不眠 | 徘徊 |
| 排泄変化 | — | — | 頻回・便秘 | 夜間排泄 | — |
| 睡眠不調 | — | — | — | 早朝覚醒 | 日中傾眠 |
| 発熱 | 食思不振 | 入浴中止 | — | 発汗 | 活動低下 |
| むせ込み | 誤嚥リスク | — | — | — | — |
| 情緒不安 | 拒食 | 拒否 | — | 興奮 | 焦燥 |
ケース1:発熱×就寝場面
場面:夜間巡回観察(就寝中)/利用者:80代女性・脳梗塞後遺症/状況:消灯後2時間で顔色不良と発汗。体温37.8℃(平熱36.2℃)。
記録例:22:00巡回時、臥床中。顔色蒼白、前額部に発汗。体温37.8℃(平熱+1.6℃)。呼吸20/分、SpO2 96%。訴えなし。担当看護師に連絡、解熱剤の指示を確認。
ケース2:歩行不安定×活動場面
場面:午後のレクリエーション移動/利用者:70代男性・変形性膝関節症/状況:廊下歩行中に右脚の引きずりと左方偏倚が出現。前日は異常なし。
記録例:14:20、廊下歩行中に右脚引きずり出現。歩行速度低下、左方へ約30cm偏倚。手すり把持し自立歩行維持。痛みの訴えなし。機能訓練指導員に引き継ぎ。
ケース3:むせ込み×食事場面
場面:昼食/利用者:90代女性・誤嚥性肺炎既往/状況:汁物摂取中にむせ込み。SpO2が94%まで低下。
記録例:12:15、昼食のみそ汁摂取中にむせ込み。口腔内残渣確認。SpO2 94%(通常97%)。摂取一時中断、背部をさすり覚醒水準確認。10分後にSpO2 97%に回復。看護師に連絡、以後トロミ調整を指示。
5. モニタリング記録の書き方と場面別記入例
モニタリング記録は5W1Hと客観的事実に基づき、一文一義で記載します。食事・入浴・排泄・就寝の場面では「元気に食べた」といった主観を避け、「おかず全量を30分で摂取、むせ込みなし」のように量・時間・所見を数値化します。看護場面ではSOAP形式が観察所見の構造化に有効です。
観察事実を記録する際も基本原則を守ることで監査に耐える質を担保できます。記入項目マップと4場面のNG・OK例を示します。
記入項目マップ
| 記入項目 | 記載内容のポイント |
|---|---|
| 時刻 | 観察・実施時刻を分単位で |
| 場所・対象者 | 居室・食堂など具体化、氏名と介助者名を明記 |
| 観察事実 | バイタル数値・行動・所見を客観的に |
| 実施内容 | ケアの内容・所要時間・使用器具 |
| 変化・所見 | 前日・平常時との比較を明示 |
4場面のNG例・OK例
食事
✕ NG:おいしそうに食事をとられていました。
◯ OK:12:00昼食。おかず全量を約30分で摂取。右手でスプーン把持。水分180ml摂取。むせ込みなし。前日と比較し摂取時間に変化なし。
入浴
✕ NG:入浴は問題なく終了しました。
◯ OK:14:30、一般浴にて入浴。洗身は一部介助(背部)。湯温40℃。入浴時間15分。脱衣・着衣は自立。入浴中の血圧変化なし。
排泄
✕ NG:トイレで排泄できたようです。
◯ OK:10:15、トイレにて自然排泄(便:普通量・茶褐色)。歩行は自立、手すりを使用。滞在時間5分。前回排便は昨日10:00。
就寝
✕ NG:夜はぐっすり眠られていました。
◯ OK:22:00消灯、臥床。23:00入眠確認。2:00覚醒せず。5:00右側臥位で安眠。夜間排泄1回(2:30、少量)。顔色良好。
「〜のようす」「問題なく」を外し、行動・量・時間・所見に分解すると記録の証拠価値が高まります。
6. 観察の見逃しがヒヤリハットにつながる——注意点と再発防止
日々のモニタリングで見逃しやすいサインが重大なヒヤリハットや事故につながることがあります。頻出パターンを整理します。
見逃しサイン トップ5
- 微熱の継続:1度台の微熱を見過ごすと肺炎等の重症化につながります。
- 緩徐な歩行変化:日々のわずかなふらつきが蓄積し転倒につながります。
- 食欲の漸減:摂取量のグラフでしか見えない低下が低栄養のサインです。
- 排泄リズムの変化:頻回化や便秘の慢性化が腸閉塞等の前触れになります。
- 情緒の微細な変化:不穏の初期サインは行動の細部に現れます。
これらを記録に残し申し送りで共有することが未然防止につながります。記録例は「ヒヤリハット 例文30選」を、報告書は「ヒヤリハット報告書の書き方」を参照ください。
7. アセスメント・ケアプラン評価との違い(実施頻度・担当者)
アセスメント(初期評価)/ケアプラン評価モニタリング(月1回・ケアマネ)/日々の状態観察モニタリング(毎日・全職種)の3層は、頻度・担当者・目的が異なります。日々観察は毎日の記録が月1回評価の材料となり、3層が連動してケアの質を担保します。ケアプラン評価の記録例は文例記事へ委ねます。
「モニタリング」に似た用語にアセスメントとケアプラン評価があり混同されがちです。3層を比較表で整理します。
| 項目 | アセスメント | ケアプラン評価モニタリング | 日々の状態観察モニタリング |
|---|---|---|---|
| 頻度 | 契約時・状態変化時 | 月1回以上 | 毎日 |
| 担当者 | ケアマネ・全職種 | ケアマネ | 全職種 |
| 目的 | 課題と必要性の把握 | 目標達成の評価と改訂 | 状態変化の早期発見 |
| 記録様式 | アセスメント票 | 評価・修正票 | 毎日の介護記録 |
3層は連動します。毎日の観察記録が月1回の評価の材料となり、評価結果が次の目標改訂につながります。ケアプラン評価の記録例は「ケアプラン文例200選」に委ねます。
8. ICT見守りシステム5系統客観比較——人の目を補完する技術

介護報酬の「科学的介護推進体制加算」「夜勤職員配置基準等加算」等を背景にICT見守りシステムの導入が進んでいます。5系統を客観比較し、各系統の最大の差別化ポイントを冒頭に示します。
ナースコール系(例:ケアコムCICSS)
差別化ポイントは「記録・バイタル・勤務を統合するプラットフォーム機能」です。モニタリングデータを一元化できるのが強みです。
AI見守りカメラ系(例:SG見守りAIカメラ)
差別化ポイントは「離床・転倒・長時間起き上がりをAIが自動検知」する点です。夜間の人的見回りを補完します。
離床センサー系(例:ザ・マーム/アラククス離床センサー)
差別化ポイントは「プライバシーを侵さず離床を検知」する点です。カメラを伴わないため個室寝室での導入ハードルが低いです。
見守りAI解析系
差別化ポイントは「既存カメラ映像をAIで解析し行動異常を検知」する点です。新規設備追加なしで既存カメラを活用できます。
記録タブレット系(例:CareLacuo/Wisdom)
差別化ポイントは「観察記録の入力負荷を下げる音声・定型入力」です。記録時間を削減し状態変化を可視化します。
5系統比較一覧表(補助)
| 系統 | 費用感 | 対象ケース | 報酬加算 | 主な強み |
|---|---|---|---|---|
| ナースコール系 | 中〜高 | 中規模以上の施設 | 連携加算の活用 | 統合プラットフォーム |
| AI見守りカメラ系 | 中 | 夜間見回り負荷大 | 夜勤職員配置加算 | 自動異常検知 |
| 離床センサー系 | 低〜中 | 個室寝室中心 | 見守り体制加算 | プライバシー配慮 |
| 見守りAI解析系 | 低〜中 | 既存カメラあり | 検知精度向上 | 既存設備活用 |
| 記録タブレット系 | 低〜中 | 記録負荷大 | 科学的介護加算 | 入力負荷軽減 |
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9. サービス種別別のモニタリング実施マニュアル
頻度と様式は種別ごとに異なります。5種別の要点は次のとおりです。
訪問介護
「訪問のたびの短期観察が中心」。次回訪問時との比較で変化を捉えます。
通所介護
「日中の活動観察が豊富」。食事・入浴・レクリエーションで多角的に観察できます。
入所系(特養・老健)
「24時間の継続観察が可能」。夜間の観察記録が早期発見に直結します。
訪問看護
「医療的観察の精度」。バイタルと病状観察を医療側面から記録し、主治医への報告材料にします。
認知症対応型(グループホーム等)
「認知症状の細やかな変化の捉え方」。BPSD(周辺症状)の出現状況を記録し、ケア手法の検証材料にします。
5種別比較表(補助)
| 種別 | 頻度 | 担当者 | 様式 | 実地指導ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 訪問介護 | 訪問のたび | 訪問介護員 | 居宅サービス記録 | 状態変化の報告経路 |
| 通所介護 | 毎日(利用日) | 全職種 | 利用記録 | 場面別観察の網羅性 |
| 入所系 | 24時間 | 全職種 | 介護・看護記録 | 夜間観察の記録精度 |
| 訪問看護 | 訪問のたび | 訪問看護師 | 看護記録 | 医師への報告記録 |
| 認知症対応型 | 毎日 | 全職種 | 介護記録 | BPSD記録の具体性 |
10. まとめとよくある質問(FAQ)
日々の状態観察モニタリングは利用者の安全を支える基幹業務です。要点は5点です。
- 2層の理解:ケアマネジメント評価と日々の状態観察を区別する。
- バイタル6項目:正常範囲と高齢者特有の注意点を押さえる。
- 場面×状態変化:マトリクスで観察の抜けを防ぐ。
- ICT活用:人の目を補完し死角を減らす。
- 法令根拠:条文番号を添え監査に備える。
よくある質問
Q1. モニタリングはどの頻度で実施すべきですか?
日々の状態観察モニタリングは毎日(勤務のたび)の実施が基本です。介護給付費算定構造に関する基準で月1回以上のモニタリング実施が位置付けられますが、これはケアプラン評価軸であり、日々の状態観察は毎日の記録が前提となります。
Q2. モニタリング記録の担当者は?
日々の状態観察モニタリングは全職種が担当します。介護職・看護職・機能訓練指導員がそれぞれの視点で観察し記録します。ケアプラン評価モニタリング(月1回)は介護支援専門員が中心です。
Q3. ケアプラン評価のモニタリングとの違いは?
ケアプラン評価モニタリングは月1回ケアマネが目標達成度を評価し改訂するプロセスです。日々の状態観察モニタリングは毎日全職種がバイタルと状態変化を記録します。前者は計画の評価、後者は現状の把握で、3層構造で連動します。
Q4. ICT見守りシステムの費用感は?
系統により幅があります。離床センサーや記録タブレットは比較的導入しやすく、AI見守りカメラやナースコール統合系は中規模以上の施設向きです。介護報酬加算(夜勤職員配置加算・科学的介護推進体制加算等)で費用の一部を補える場合があります。
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