
介護記録の例文を「食事・排泄・入浴・移動・認知症(BPSD)」の5大場面別に30パターンまとめました。現場ですぐに使えるよう【場面】【利用者】【状況】【記録例】の形式で具体化し、NG例→OK例の対比も10パターン収録しています。書き方の基本原則は介護記録の書き方完全ガイドへ、記入用ひな形は介護記録テンプレート完全ガイドへ譲り、本記事は「例文マトリクス」に特化します。
1. 介護記録の例文を探す前に:客観的記述の基本
**介護記録は事実を客観的・定量的に記すことが原則で、「元気に」「安定」といった主観的表現は避け、時刻・量・所要時間・観察所見を一文一義で書きます。**根拠は指定居宅サービス等の運営基準第19条、指定介護老人福祉施設の運営基準第6条などに求められ、監査にも耐える記述が求められます。本章では例文を読む前の共通前提だけ簡潔に整理します。
本記事の例文をそのまま使う前に、3つの前提だけ押さえてください。詳細な原則解説は介護記録の書き方完全ガイドで展開しています。
- 5W1Hを埋める:いつ・どこで・だれが・なにを・なぜ・どうを一文で完結させます。
- 数値と観察事実を残す:「全量」「約280g」「30分」「むせ込みなし」など客観情報を書きます。
- 主観は別欄へ分離:「元気そう」など推測は評価欄に分け、本文には書きません。

これらを踏まえたうえで、以下の例文は「記録本文はだ・である調(常体)」で統一しています。施設の方針でです・ます調を指定されている場合は、文体を置き換えてご活用ください。
2. 例文マトリクス30選:5大場面×状況別
**介護記録の例文は、食事・排泄・入浴・移動・認知症(BPSD)の5大場面を、それぞれ6つの状況に分けた30パターンで網羅できます。**各例文は5W1Hを満たし、介助レベル(自立・一部介助・全介助)と所要時間・量・所見を明示します。厚労省の運営基準(第19条・第6条)が求める「状態と介護過程の記録」を、場面別にそのまま転用できる形で整理しました。
介護現場で頻出する5大場面を、6つの状況に細分化したマトリクスです。食事・排泄・入浴は次章以降で詳述するため、本章では一覧表と「移動」「認知症(BPSD)」の12例を展開します。
5大場面×状況の全体マトリクス
| 場面 | 状況1 | 状況2 | 状況3 | 状況4 | 状況5 | 状況6 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 食事 | 全介助 | 一部介助 | 自助具使用 | 拒食 | 嚥下低下 | 経管栄養 |
| 排泄 | トイレ排泄 | 失禁 | 排泄介助 | 下痢 | 便秘 | おむつ交換 |
| 入浴 | 一般浴 | 清拭 | 特殊浴槽 | 入浴拒否 | 部分浴 | 入浴中止 |
| 移動 | 歩行 | 車椅子 | 移乗 | リフト使用 | 転倒時 | 外出 |
| 認知症BPSD | 徘徊 | 不穏 | ケア拒否 | 昼夜逆転 | 暴言 | 異食(食べ物あさし) |
移動の記録例文(6パターン)
- 【場面】歩行【利用者】80代女性【状況】見守り【記録例】 10:00、2階廊下を車椅子から離れ歩行。約15mを自立、手すりを使用。歩幅はやや小、転倒なし。
- 【場面】車椅子【利用者】90代男性【状況】全介助【記録例】 14:20、車椅子にて食堂へ誘導。ブレーキ確認後、フットレストを上げ着席。移動距離約30m、所要2分。
- 【場面】移乗【利用者】70代女性【状況】一部介助【記録例】 12:15、車椅子からベッドへ移乗。立位保持は安定、腰背部から最小介助。所要約1分、姿勢良好。
- 【場面】リフト使用【利用者】90代男性【状況】全介助【記録例】 15:00、床走型リフトでベッドから車椅子へ移乗。職員2名、スリング装着から着座まで約5分。シートベルト装着済。
- 【場面】転倒時【利用者】80代女性【状況】事実経過【記録例】 16:35、居室にて右側へ転倒。本人の訴え「つまずいた」。頭部打撲の訴えなし、意識清明。バイタル測定(血圧138/80・脈72)。医師へ報告済。
- 【場面】外出【利用者】70代男性【状況】付き添い【記録例】 10:30〜11:30、近隣公園へ外出(職員1名付き添い)。車椅子移動、往復約400m。気分良好、水分100ml摂取。
認知症(BPSD)の記録例文(6パターン)
BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:認知症の行動・心理症状)は、事実の観察と周囲への影響を客観的に書きます。
- 【場面】徘徊【利用者】80代男性【状況】夜間【記録例】 22:50、居室から廊下へ出る。訴え「家に帰る」。声掛けにて居室へ誘導、落ち着きを確認。転倒なし。
- 【場面】不穏【利用者】90代女性【状況】入浴前【記録例】 14:10、脱衣所にて立ち上がり繰り返し。声掛けで着座、30分後に落ち着き確認。職員1名が付き添い継続。
- 【場面】ケア拒否【利用者】70代男性【状況】食事【記録例】 12:00、昼食を手で払いのけ「いらない」。声掛け変更にて15分後に摂取開始。おかず約5割摂取。
- 【場面】昼夜逆転【利用者】80代女性【状況】夜間【記録例】 3:20、覚醒し食堂へ向かう。声掛けにて再入眠を確認。日中の活動量は平常並み、覚醒は1回のみ。
- 【場面】暴言【利用者】70代男性【状況】排泄介助【記録例】 11:00、トイレ誘導時に「帰れ」と発言。誘導は完了、排泄あり。他利用者への影響なし、職員への危害なし。
- 【場面】異食【利用者】80代男性【状況】観察【記録例】 15:40、ロビーの観葉植物の土を口へ運ぶ。即座に制止、口腔内に異物なし。誤嚥の兆候なし、以降1対1見守り。
3. 食事介助の記録例文(全介助/一部介助/自助具使用/拒食)
**食事介助の記録は、摂取量(割合・グラム)・所要時間・食事形態・むせ込みの有無・水分量を必ず記載します。**指定居宅サービス等の運営基準第19条は栄養・食事の状態記録を求め、嚥下機能の低下がある場合は一口量と嚥下確認の都度記録が推奨されます。本章は介助レベル別に4例を提示します。
食事場面は記録頻度が高く、かつ嚥下・栄養の観点から数値化が重要です。介助レベルと状況別に4例を示します。
全介助の記録例
【場面】食事(昼食)【利用者】70代男性(嚥下機能低下)【状況】全介助【記録例】 12:10〜12:55、個室にて昼食(キザミ食)を全介助。一口量約5ml、毎口嚥下確認を実施。おかず約8割・ご飯全量を摂取。途中むせ込み2回、背部叩打で軽快。とろみ付け水分80ml摂取。
一部介助の記録例
【場面】食事(朝食)【利用者】80代女性【状況】一部介助【記録例】 8:00〜8:25、食堂にて朝食を見守り。ご飯は自力摂取、おかずは一部介助(約3割)。おかず全量・ご飯7割を摂取、むせ込みなし。お茶150mlを自力摂取。
自助具使用の記録例
【場面】食事(昼食)【利用者】80代女性【状況】自助具使用【記録例】 12:05〜12:35、食堂にて昼食を見守り。自助具(太柄スプーン)を使用し自力摂取。おかず全量・ご飯8割(約280g)を約30分で摂食。むせ込みなし、水分180ml併せて摂取。
拒食の記録例
【場面】食事(夕食)【利用者】70代男性【状況】拒食傾向【記録例】 18:00、夕食を前に「食べたくない」と訴え。声掛けと好物の佃煮を提案、15分後に摂取開始。ご飯5割・おかず3割を摂取。むせ込みなし。看護師へ栄養状態の変化を申し送り。
4. 排泄の記録例文(排泄量/失禁/排泄介助/下痢)
**排泄の記録は、時刻・排泄量(多量/普通/少量)・便性状(硬便/普通/軟便/水様)・皮膚状態の4点を原則として記載します。**下痢や失禁が続く場合は臀部皮膚の発赤・靡爚(びらん)の有無を毎回記録し、褥瘡(じょくそう)予防につなげます。根拠は運営基準の排泄自立支援・衛生管理の条項です。
排泄記録は利用者の尊厳にかかわるため、事実のみを淡々と、かつ皮膚トラブルを見逃さない記述が求められます。
トイレ排泄(一部介助)の記録例
【場面】排泄【利用者】80代女性【状況】トイレ誘導【記録例】 10:15、トイレへ誘導し見守り。自然排尿・排便(便:普通量・茶褐色・普通便)。トイレ動作は手すり使用で自立、滞在5分。残尿感の訴えなし。
失禁の記録例
【場面】排泄【利用者】90代男性【状況】失禁【記録例】 14:00、居室にて尿失禁を確認。おむつ交換実施、尿量は中量・淡黄色。臀部・外陰部を清拭、皮膚に発赤なし。水分摂取量は平常並み、原因は咳こみ時の腹圧と推測(評価欄)。
排泄介助(おむつ交換)の記録例
【場面】排泄【利用者】90代男性【状況】おむつ交換(全介助)【記録例】 14:00、ベッド上でおむつ交換。尿:多量・淡黄色、便:少量・硬便。肛門周囲に発赤なし、清拭後に保湿クリーム塗布。臀部皮膚に異常を認めず。
下痢の記録例
【場面】排泄【利用者】80代女性【状況】下痢【記録例】 9:30・11:15・14:00の3回、水様便を確認。いずれも少量、腹部緊満の訴えなし。毎回清拭・保湿クリーム塗布、臀部皮膚に発赤なし。水分補給を都度声掛け(計250ml摂取)。看護師へ報告済。

5. 入浴の記録例文(一般浴/清拭/特殊浴槽/拒否)
**入浴の記録は、入浴方法(一般浴/清拭/機械浴)・湯温・血圧変動(浴前・浴後)・気分不良の有無を記載します。**指定介護老人福祉施設の運営基準は入浴時の安全確保と衛生管理を求め、循環器負荷による事故防止のため血圧測定が推奨されます。入浴拒否時は無理强いせず、清拭への切り替え理由も記録します。
入浴は転倒・熱中症・血圧変動のリスクがある場面です。安全確認の痕跡を残す記述が重要です。
一般浴の記録例
【場面】入浴【利用者】70代女性【状況】一般浴(見守り)【記録例】 14:30〜15:00、一般浴槽(湯温40℃)に入浴。血圧は浴前132/78・浴後128/82。上半身は自助・下半身を一部介助。気分不良なし、着替えは自立。
清拭の記録例
【場面】入浴【利用者】80代男性【状況】清拭(入浴拒否のため)【記録例】 14:30、入浴を拒否されたため清拭へ変更。温タオルで上半身・下半身を清拭、着替え実施。血圧140/82、皮膚に発赤なし。保湿剤を背部へ塗布。気分不良なし。
特殊浴槽(機械浴)の記録例
【場面】入浴【利用者】80代男性【状況】機械浴(全介助)【記録例】 15:10〜15:40、機械浴(湯温39.5℃)を全介助。血圧は浴前145/85・浴後138/80。職員2名で洗身・清拭、血圧低下なし。終了後に水分100mlを摂取。
入浴拒否の記録例
【場面】入浴【利用者】90代女性【状況】入浴拒否【記録例】 14:00、脱衣所にて「入らない」と拒否。声掛けを試みるも同意得られず、清拭へ切り替え。理由(拒否)と代替ケア(清拭・着替え)を記録。家族への連絡は夜勤帯で実施予定。
6. NG例→OK例の対比10パターン
**介護記録で頻出する主観的表現は、行動・量・時間・観察所見への言い換えで客観化できます。**本章は現場で最も修正されやすい10パターンを対比で示します。NGワード全体の言い換え表は介護記録の書き方完全ガイドで網羅しており、本章は例文との対比に特化します。
記録の質は「主観語をどう数値・事実に置き換えるか」で決まります。10パターンを一覧にしたうえで、代表的なものを深掘りします。
NG/OK対比一覧
| # | 場面 | ❌ NG(主観・曖昧) | ✅ OK(客観・定量) |
|---|---|---|---|
| 1 | 食事 | 「よく食べた」 | おかず全量・ご飯8割(約280g)を30分で摂取 |
| 2 | 食事 | 「食欲ありそう」 | ご飯全量・おかず7割摂取、むせ込みなし |
| 3 | 排泄 | 「問題なくできた」 | 10:15トイレで自然排便、普通量・茶褐色 |
| 4 | 排泄 | 「おむつはきれい」 | 尿少量・便なし、皮膚に発赤なし |
| 5 | 入浴 | 「元気に入浴」 | 14:30〜15:00一般浴、血圧132/78→128/82 |
| 6 | 入浴 | 「気分よさそう」 | 浴中会話あり、気分不良の訴えなし |
| 7 | 移動 | 「歩行は安定」 | 廊下15mを自立、手すり使用、転倒なし |
| 8 | 認知症 | 「落ち着いていた」 | 22:50以降覚醒なし、朝6:00まで入眠継続 |
| 9 | 全般 | 「バイタル安定」 | 血圧132/78・脈72・体温36.4℃・SpO2 97% |
| 10 | 全般 | 「状態良好」 | 意識清明、水分180ml摂取、皮膚に発赤なし |
代表パターンの書き換え解説
- #1「よく食べた」→摂取量と時間:割合・グラム数・所要時間の3点で定量化します。監査で最も指摘されやすい表現です。
- #3「問題なく」→時刻と便性状:排泄は時刻・量・性状(硬便/普通/軟便/水様)・色を添えます。
- #8「落ち着いていた」→時間帯と回数:夜間記録は覚醒回数と時間帯を数値で書きます。申し送りの正確性にかかわります。
- #9「バイタル安定」→4項目の実測値:血圧・脈・体温・SpO2を並べるだけで客観性が担保されます。
7. 夜勤帯の記録例文(申し送り前提)
**夜勤帯の記録は、翌朝の申し送りで次の担当者が一人で状況を再現できる完結性が求められます。**覚醒回数・排泄の有無・バイタルの異常・ヒヤリハット事例の有無を時系列で残し、看護師への申し送りにつなげます。夜間は職員数が少なく、記録が唯一の引き継ぎ手段になるため、特に正確性が問われます。
夜勤帯は職員が少なく、記録が命綱になります。申し送りを前提とした時系列記録の例を示します。
夜勤帯の時系列記録例(1利用者・22:00〜6:00)
【利用者】80代女性(要介護3・認知症あり)
- 22:00 消灯、就寝。体位は右側臥位、ベッド柵を設置。
- 1:30 覚醒、トイレへ誘導。自然排尿(少量・淡黄色)、転倒なし。再入眠。
- 3:20 覚醒し食堂へ向かう。声掛けにて再入眠を確認。覚醒は本件のみ。
- 5:00 おむつ確認、尿少量・便なし。皮膚に発赤なし。
- 5:45 覚醒、離床。血圧136/80・脈74・体温36.3℃。気分不良の訴えなし。
- 6:00 朝食準備開始。申し送り事項:覚醒2回・排泄1回・異常所見なし。
夜勤申し送りの要点(テンプレ)
申し送りでは次の5点を簡潔に伝えます。詳細な申し送り手法は看護師への申し送りで解説しています。
- 覚醒・不穏:回数・時間帯・対応
- 排泄:回数・性状・失禁の有無
- バイタル:異常値の有無と対応
- ヒヤリハット:有無と概要(詳細は別記事「ヒヤリハット報告書の書き方」)
- 引き継ぎ事項:日勤へ確認依頼する項目
まとめ|例文を現場の自施設に合わせて活用する
本記事では介護記録の例文を5大場面×30パターンで整理しました。要点を振り返ります。
- 5大場面の網羅:食事・排泄・入浴・移動・認知症(BPSD)を6状況ずつ展開しました。
- 介助レベル別の例文:全介助・一部介助・自助具使用・拒否など状況別に具体例を示しました。
- NG→OK対比:主観語を数値・観察事実に言い換える10パターンを収録しました。
- 夜勤帯の時系列:申し送り前提で再現性の高い記録例を提示しました。
例文はあくまで雛形です。ご自身の施設の様式・方針・利用者像に合わせて、数値と所見を差し替えてご活用ください。書き方の基本原則(5W1H・一文一義・法令根拠)は介護記録の書き方完全ガイドへ、記入用ひな形(Excel/PDF/チェック式)は介護記録テンプレート完全ガイドへ、介護記録の全体像は総合ガイド介護記録で展開しています。